PAエンジニアになったきっかけや生い立ち、心得などいろいろと聞いてみました。これからPAをやってみたい、またはPAエンジニアを志す方などはもちろん、音楽好きな方が読んでも楽しい内容です。
第1回目は
DUB MASTER X氏の登場です。
インタビューワーとして、ALTO小町氏を迎えております。
PAを始めたきっかけはどうだったんでしょうか?
高校卒業後の進路を考えた時に、大学に進学するか迷ったんですよ。中学・高校とバンド(ドラム)をやっていた事もあって高校の学園祭でPAの真似事をやりまして。家ではオーディオ・オタクでした。そのぐらい音楽漬けだったんですけど、実は幼少の頃からスキーもかなりやってました。それで高校卒業後の進路について先生と話したんですよ、世界レベルのスキーの先生になりたいんだと。そしたら先生が調べてくれたんです。スイスに学校があるけど最低条件として自国語の他に2か国語マスターしてないとダメだと。「これじゃ無理っす!」となってスキーの先生は諦めました。(笑)
DUB MASTER X(以下DUB)
それでスキーの道は終わってしまうんですね。
はい。とにかく勉強は駄目でしたから。かといって大学でもないなとも思い、じゃあ音楽かなと。音楽と言ってもバンドでどうこうできるとは思わなかったんです。そこで学園祭でやったPAがもの凄い面白かったこともあり、ほぼ同じタイミングで吉野金次※1さん著書の「ミキサーはアーティストだ!」を読んだら「もうこれしかないよね!」って。
DUB
運命的な出会いの1冊ですね。
書いてあることは、ミキサーのさじ加減ひとつで音楽はいかようにも変わるんだと言うことが熱く書いてあるんですよ。この本には非常に影響受けましたねー。あとですね、当時良くいろいろなコンサートにも行っていてー昔、チケットは座席表を見ながら買えたんですけどね。いつも座席はPA席の前や後ろを取ってました。その場所が音が良いに決まってると思ってたので。
DUB
高校生の頃からPA的な音の聞き方をしていましたね。
そうなんです。生意気ですよね。(笑)さらにですね、進学を考える頃に親父が1年程前から東京に単身赴任になってたんです。妹はピアノの高校に行きたい、僕はやっぱりミキサーになりたいからエンジニアの専門学校にいきたい。大学じゃなくてね。それなら家族で東京に行っちゃおうかって。
DUB
すごい展開ですね。タイミングもバッチリ。
そうやって音響の専門学校に行ったんですけど、実技が全然無くて詰まらない。そんな中、ディスコやライブハウスに遊びに行っているうちに、友達が工藤昌之※2さんと知り合いまして。新しいクラブのPAを探していると聞いて19歳の時に会いに行きましたよ。「PAやりたいです、ミキサーやりたいですっ!」て伝えたら採用になったんです。
DUB
運命的な出会いですね。実力が若い時からあったんですかね。
やっぱり才能あるのかなーなんて当時は思っていたけど、後年に工藤さんに聞いたら「ガタイ良くて力強そうだからステージ回りに良いなーて思ったから雇ったんだよね」て言われてなーんだ!って(笑)。そりゃそうですよね。ただの小僧ですから。そこでライブスタッフをやったり、皿洗いやったりしました。そんな頃にそこに出演していたMUTE BEAT※3と知り合いました。
DUB
これまた運命的な出会いが。
工藤さんに「MUTE BEATのPAやらせてもらえますか?」 って聞いたら運良くやらせてもらえたんです。この時20歳くらいで初めての専属PAでしたね。ミキサーとして右も左も判らない状態です。MUTE BEATはそれまでに各プレーヤーが各自エフェクトをかけてダブをしてたんですけど、これをPA側で僕がやればいいじゃんって。これは吉野金次さんが言っていたミキサーはアーティストだ!と言う謳い文句そのものだ。その一つの答えがダブ・エンジニアなのだなと思いました。結局PAは我流です。PA業者に入ったこともないし、いろいろ失敗して試行錯誤してきましたよ。
DUB
失敗も経験して学ぶこともありますよね。PAの楽しさ、難しさを教えてください。
音を増幅する楽しさ。バンドの人達がやっていることを寸分違わず大きく聞かせる事が普通のPAですね。ただ、それをどうやったらこの人達の演奏をもっと光り輝かせることができるかを一緒に考えて音響的に協力しモノを作り上げる楽しさですね。当たり前ですけどミックスのやり方でバンドのイメージも変わってしまうので、彼らの人生を背負ってると言っても過言ではないですよね。
DUB
重大な任務ですよね。難しさはどうでしょうか?
反面、難しさも同じことが言えますね。もの凄い責任感ある仕事ですよね。酷い音を出してしまったらバンドの道を閉ざしてしまう事にもなりかねない。昔は、自己主張が強い音を出してばかりいました。が、近年はいかにステージ上の演奏者に良い環境を作ってあげるかが主眼になってきました。演奏者が良い環境で良い演奏をしてくれれば、自然にステージから凄いエネルギーが出ます。それは絶対お客様に伝わるはずですからね。
DUB
外の音は任しておけと。
そうです。外の音の心配は一切させませんよ。良い音を出すとか、ダブをするとか当たり前のことなので更に最善にするにはどうするかを考えてます。それにはモニター環境作りも大事なポイントになります。会場のサイズは関係ないですね。大きい会場でもどんなに機材の足らない小さな会場でもその考え方は変わりません。物理的に難しい条件ということは良くありますね。例えば野外で700~800人くらいの会場で200人くらいしかまかなえないパワーの機材しかないとか。こういう環境でもどう対処するかが難しくもあり、楽しいことでもありますね。
DUB
悪い環境でも最善を尽くしてこそですね。ではPA初心者の心得はどのようなことでしょうか?
まずどんな状況でも諦めない事。何事でもわからない事や不安な事は経験ある人に聞く。今の時代パソコンで検索してわかった気になっちゃうのですが人に聞くことが一番です。人とのやりとりから人間関係もできたりしますからね。
DUB
そこからのコミュニケーションも生まれますからね。
はい。現場を動かしているのは人だし、その人の能力が低かったら現場は良くならない。だけど人が良ければ機材は酷くても乗り切れますからね。機材はスペック以上の事は出来ないですからね。あとは、初心者でもまずはスピーカーの限界がある程度わかると良いですね。この機材でどれくらいのスペースをまかなうことができるとかどのクラスのバンド編成が可能か?想像つきますから。例えばドラムンベースのユニットがLIVEをやるのにサブ・ウーハーが無いと表現したい事がまったく出来ないとかね。演目に合った使用機材が見えるようになると良いですね。
DUB
スピーカーの容量の目安があると機材選びがスムーズですね。
機材を知って最適な環境を作り出す事もPAの大事な仕事ですよね。例えばボーカルのいるバンド、ユニットの場合、あたりまえだけど人間の声の大きさには限界があることを忘れてはいけないですね。ギターやシンセはアンプのボリュームを上げれば大きくできるけど声には限界がある。そこを補ってあげる事、音の交通整理をする上でも機材選びはとても大事ですね。
DUB
イコライザーの重要性について教えてください。
PAやいろいろな機材はイコライザーがフラットな状態で活かされるように作られていますよね。ですがどの音圧でフラットなのかと言うことがとても重要です。大きな音が必要でなければイコライザーは不要かもしれません。大きな音が必要になってくるとイコライザーが必要になる事が多いのです。何故かと言えば、ハウリングとの戦いがあるからですね。この話は長くなるので割愛しますが、そもそもフラットとは「自分自身の耳に対してのフラット」であることが大事なわけでして、自分自身のフラットを作る為にもイコライジングは必要になるのです。ちょっと深い話になるのでこれはまたの機会に。(笑)
DUB
PAでの便利グッズはありますか?
何だろ?。んーー特にないですねー。便利グッズと言うよりは日々の機材のメンテナンス。普通にキチンと音が出る事を常日頃確認していることが大事ですね。
DUB
PA初心者への注意点は?
PAシステムの大小にもよりますが、全てをPAシステムでコントロールしようと思わない発想は大事。特に狭い会場でやる場合では、PAを使ってない状態でのバンドの生音がどう鳴っているかを聞く。その音をしっかり把握した上で、足りない音が何か?を把握してPAでサポートしてあげることかな。
DUB
PAは知恵を絞る仕事ですね。トラブルを回避するにはどういう対策をしてますか?
2重3重にトラブルが起こることを前提に考える。何が起こるかわからないからトラブルが起きる訳で、そのためにはこの機材が壊れたらどうしよう?とかこのアウトボードが壊れたらどうしよう?と常に考えることです。例えば電源が抜けないようにキチンと養生するとかね。基本的な事ですけれどそれすら出来ていない現場を見かける事もありますからね。
DUB
聞いていて疲れない音とは?
音量によって変わりますよね。曲によっても違いますし。アーティストによっては最初から最後まで同じスピーカーのチューニングで良い時もあるし、曲毎に頻繁にイコライジングする時もありますからね。常に神経をはりめぐらせ、どの曲でも耳が痛くならない音を心がけてPAをしてます。
DUB
良いPAとは何でしょうか?
難しいですね。バンドが表現したい事を実現できる事が大事ですよね。バンドの意向が歌を大き目にと言っているのに歌が引っ込んでるとか。爆音でお願いしますと言われても、お客様の耳がキーンとなるようなうるさい音は辛い。そのような事もバンド、スタッフとしっかりコミュニケーションが取れているPAは良いPAと言えるんじゃないですかねー。常に会場全体を俯瞰で見れているPAは良いと思います。
DUB
やはりコミュニケーションは重要ですね。逆に悪いPAとは?
常にトラブルが多いのは良くないですね。トラブルが起きる前に事前に機材やスタッフとの確認ができてない訳ですから。自分のシステムを把握出来ていないとかね。やっぱり人です。努力していないとダメですよ。
DUB
PAをやるうえで常に心がけている事はありますか?
準備をキチンとやって与えられた時間の中で精一杯やる。達成感はあってもそこで満足しない。終わった瞬間は「いいライブできたわ~」って思うけど、次の日に「あそこでああいう事できたなぁ」なんて冷静になって自分を反省することを心がけてます。あと、心配しすぎですよって言われるくらい常に心配してます。簡単に安心しないってことですね。
DUB
達成感があってもなかなか満足できることはないですね。では最後にこれからPAをやってみたい方、PAエンジニアを志す方にコメントをください。
怖がらずにPAをまずやってみましょう。身近な生活の中、例えば友達とのパーティーでBGMの音量やマイクの音量を気にかける事もPAなんです。街頭ライブのボーカルマイクの調整だってPAです。色々な条件や状況の中で如何に気持ち良く音を拡声して音空間を演出する事が出来るか? 「今日の音良かったですよ!」て終演後に言われると嬉しいものですよ。やってもやっても終わりが見えない沼ですけどね(笑)。だからPAって楽しいんです。
DUB
ありがとうございました。
※1「吉野金次」数々の有名アーティストを手掛けるレコーディング・エンジニア、アレンジャー。日本では初となるフリーのエンジニアとして活動。
※2「工藤昌之」日本が誇るヒップホップ・アーティスト。MELONに在籍。本初のヒップ・ホップを中心としたクラブ・ミュージック・レーベル“メジャー・フォース(MAJOR FORCE)”を設立。
※3 「MUTE BEAT本初のダブバンド。独特のサウンドで、世界中で評価される。数々の有名ミュージシャンが在籍。
一発で彼の音と分る個性的な音作りをするが、そのバランス感覚は絶妙で、歌謡曲からクラブのフロアーを揺るがす音作りまで何でもこなすサウンド・エンジニア&DJ&クリエイター。
ごく初期のMute Beat時代からダブ・エンジニアとして参加し、全ての作品に参加。Mute Beat解散後は“Dub Wa Crazy”シリーズ で7インチ・シングルを10枚リリース(後に全曲を収録した同名の2枚組CDをリリース)。92年にはファースト・アルバム『Dub Master X』を皮切りに『Dub Master X II』『Side Job』をリリース。また藤原ヒロシとのLuv Master X名義のアルバム『L.M.X』も93年にリリース。
Dub wa Self Remixシリーズを始めアンダーグラウンドでの活動をしながら00年には『Dub’s Music boX』を、2009年には『Dub Summer Pop』をリリース。2010年には鬼才リミキサーユニット[Moonbug]に加入。
リミックス・ワークとして浜崎あゆみ、倖田來未、Every Little Thing、globe、鈴木亜美、Do As Infinity、華原朋美などエイベックス作品を多く手掛ける傍ら、ヤン富田、いとうせいこう、Pizzicato Five、ムーンライダース、The Blue Hearts、コレクターズ、キリンジといった玄人好みのミュージシャンの作品にも多数参加。既に本人でさえ数え切れないほどの作品に関わっている。
PAエンジニア・レコーディングエンジニア・リミックス・プロデュース・アレンジ・プログラミング・DJ・舞台音響等々、活動も多岐にわたる。近年は再度PAエンジニアをメインに活動中。DefTech・SUGIZO・柴咲コウ・m-flo・かせきさいだぁ・小島麻由美・THE MAN・SOUR・Heavenstamp等のFOHを担当している。
もちろん動画でも解説させていただいてます!解説動画以外にも、実際に使っている様子や関係者へのインタビューもあります!!
パブリックビューイングの音響をオタレコプロデュース!当日の様子をブログでご紹介しています。
ライブハウス、クラブへの導入におすすめ。高音質、Cerwin-Vega!の本格PAセット登場!
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インタビュー企画、PAマエストロ達に学ぶ。第1回目のDUB MASTER Xに続き第2回目は、間瀬哲史です!!
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